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東京地方裁判所 平成3年(ワ)15347号 判決

原告

株式会社富士喜本店

右代表者代表取締役

藤沢憲

右訴訟代理人弁護士

山根二郎

被告

資生堂東京販売株式会社

右代表者代表取締役

山本義孝

右訴訟代理人弁護士

石井成一

山田敏章

桜井修平

右訴訟復代理人弁護士

佐藤りえ子

主文

一  被告は、原告に対し、別紙物件目録記載の化粧品を引渡せ。

二  原告のその余の訴えを却下する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告が、昭和三七年に締結された原告被告間の資生堂化粧品販売特約店契約に基づき、原告の注文にかかる資生堂化粧品を、注文後二日以内に被告から引渡しを受けるべき地位にあることを確認する。

2  主文一項同旨

3  主文三項同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、株式会社資生堂(以下、単に「資生堂」という。)の製造にかかる化粧品(以下「資生堂化粧品」という。)を専門に取扱う販売会社であり、原告は被告との間で、昭和三七年次の内容の資生堂化粧品販売特約店契約(以下、「本件特約店契約」という。)を締結した。

(一) 被告は、原告の注文に基づき、被告が販売する資生堂化粧品を原告に継続して供給する。

(二) 被告は、在庫がない場合を除き、原告の注文にかかる資生堂化粧品を注文後二日以内に原告に引渡す。

(三) 原告は被告に対し、原告の注文により被告から供給された資生堂化粧品の商品代金を、毎月二〇日締切、翌月五日限り、原告事務所において支払う。

(四) 右特約店契約は、契約の日から一年間有効とし、当事者双方に異議のないときはさらに一年間自動的に更新され、以後も同様とする。

2  本件特約店契約は、いわゆる継続的契約関係であり、次の事情があるから、供給者側である被告が一方的にその商品の出荷を停止することは許されない。すなわち、

(一) 本件特約店契約は毎年自動更新され、原告は二八年間にわたって被告から資生堂化粧品の供給を受けてきたものである。

(二) 資生堂は日本第一の売上げを誇る化粧品メーカーであり、年間売上げは三五〇〇億円に上り、年間二〇〇億円の広告宣伝費を使って大量生産された自社の化粧品の購入を広く消費者に呼び掛けている。

(三) 一方、原告は零細な小売店にすぎず、資生堂化粧品は原告にとって主力商品であり、資生堂化粧品を取り扱うことが化粧品販売店としての原告の特色となっている。したがって、資生堂化粧品の供給が停止されることは原告に決定的な打撃を与える。

(四) また、原告が被告以外から資生堂化粧品を購入する道は、一切閉ざされている。

3  被告は本件特約店契約は解除により終了したと称し、原告の本件特約店契約上の地位を争っている。

4  原告は被告に対し、平成二年五月一六日以降平成三年六月一五日までの間に、別紙物件目録記載の資生堂化粧品を注文したが、被告は同商品の出荷に応じない。

5  よって、原告は本件特約店契約に基づき、原告の注文にかかる資生堂化粧品を、被告から注文後二日以内に引渡しを受けるべき地位にあることの確認及び、被告に対し、別紙物件目録記載の資生堂化粧品を引渡すことを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、原告と被告との間で昭和三七年資生堂化粧品販売特約店契約が締結されたことは認める。特約店契約の具体的内容のうち、同(一)は認める。ただし、取引の目的となる商品は、被告が販売する資生堂化粧品のすべてではない。

同(二)は否認する。注文後二日以内に引渡す旨の特約は存しない。同(三)及び(四)は認める。

2  請求原因2の柱書は争う。

本件特約店契約は、後記のとおり一般に見られる単純な継続的商品売買契約とは異なるものである。

(一) 同(一)及び(二)の各事実は認める。

(二) 同(三)の事実は否認する。本件特約店契約の解除当時の原告の売上高は年商約三〇億円程度と推測されるところ、うち資生堂化粧品の売上高は多くて二億五〇〇〇万円程度であって一割に満たない。

3  請求原因3は認める。

4  請求原因4のうち、原告が資生堂化粧品を被告に発注し、被告が出荷に応じていないことは認めるが、その商品内容は知らない。

三  抗弁(解除権の行使)

1  本件特約店契約には、契約の有効期間中といえども、両当事者はそれぞれ文書による三〇日前の予告をもって中途解約できる旨の定めがあった。

2  被告は原告に対し、平成二年四月二五日付けの解約通知書により本件特約店契約を解除する旨の意思表示をし、同意思表示はそのころ原告に到達した。

3  したがって、前項の解約通知書が原告に到達してから三〇日の経過により、本件特約店契約は解除された。

4  被告が右の解除をするについては、次の事由があったから、右の解除は正当なものである。

(一) 資生堂は、化粧品の品質の維持、皮膚トラブルの防止、消費者の利益促進のため、顧客ごとの肌の状態、好み、買上商品等の顧客管理の下に面接による相談販売ないしは説明販売を行うこと(以下、「対面販売」という。)を基本理念として、これに共鳴・賛同をしてくれた小売店に限って契約をしている。したがって、本件特約店契約は単純な継続的商品売買契約とは異なり、資生堂の販売理念を具現化するために小売店側の多くの義務条項を含むものである。

(二) ところが、原告はこの対面販売に反し、昭和六二年一二月ころから各社製品と共に、資生堂化粧品についても、単に「商品名」と「定価」等を記載するだけの商品一覧表を作成してこれを各所に配布して、これによる通信販売及びさまざまな会社の事業所ごとに、当該事業所の特定部門あるいは特定の人に同事業所内の不特定多数の社員から同商品一覧表に基づく商品注文を受けさせ、これを原告に一括発注させる販売を行った。

これらは、いずれも右被告の基本理念に反するものである。

(三) これを知った被告は、このような販売方法の中止を求めたところ、原告は、昭和六三年夏ころ、商品一覧表から資生堂化粧品を削除したが、実は資生堂化粧品についての別冊を作成して依然として通信販売等を行っていた。

(四) このようなことから、原告・被告共に代理人弁護士を立てて交渉を行った結果、平成元年九月一九日付けで合意に達し、原告は商品一覧表による販売から資生堂化粧品を除くこと等を約束した。

(五) しかるに、原告はこの合意後も資生堂化粧品の商品一覧表による販売を行っていた。

(六) 被告が合意事項の履行の確認を求めると、原告は、「富士喜を担当している資生堂の社員は、幸せな人生を送らせないようにしてやる」等と脅し、また、従来小切手で行っていた支払を、五〇〇枚位の一万円札及び六〇〇〇枚を越える千円札で、しかも札束の帯封を切りばらばらにしたもので支払うという嫌がらせをした。

(七) 被告と特約店契約をした小売店には、対面販売を行うために必要なセミナーへの参加義務及び顧客管理のための花椿会会員台帳作成義務がある。それにもかかわらず、セミナーには原告代表者及びその妻しか参加せず、会員台帳は作成されなかった。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1、2は認める。

2  同3は争う。

3  同4柱書は争う。

(一) 同(一)の事実は不知。

(二) 同(二)は認める。ただし、これが被告の基本理念に反するかは知らない。

(三) 同(三)、(四)は認める。

(四) 同(五)及び(六)は否認する。威嚇や脅しは、むしろ被告が原告に対して行っていた。

被告は対面販売の重要性を強調するが、顧客はそのつど販売員から口頭での説明やアドバイスを受けなくても、既に、その資生堂化粧品を使用したことがあったり、友人知人から薦められ自ら商品自体を手に取ってその色や量等を確認したり、試供品や商品説明書を利用したり、原告その他の店で商品説明を聞いていたりすることにより、資生堂化粧品についての知識を十分に得ることができる。したがって、原告が通信販売や職場での販売を行っているからといって消費者の利益を害することはない。原告以外のどの資生堂チェインストアにおいても、消費者が「これ下さい」と言って資生堂化粧品を差し出した場合、一切の説明なしに販売されているのに、被告はこれを問題にしていない。しかも、資生堂化粧品の直売店である「ザ・ギンザ」及び伊勢丹新宿店他の主要デパートにおいても、一切の商品説明なしに電話注文による配達販売が行われている。

(五) 同(七)は認める。もっとも、原告は、資生堂化粧品を購入した顧客ごとにいついかなる化粧品を購入したかをコンピューターに入力して、常に顧客を管理している。

第三  証拠〈省略〉

理由

一1  請求原因1の各事実のうち、被告の営業内容、昭和三七年原告と被告との間で資生堂化粧品販売特約店契約(本件特約店契約)が締結されたこと、及び原告主張の同特約店契約の内容のうち原告の注文後二日以内に引渡す旨の特約の存在を除いては、当事者間に争いがない。しかし、同約定については、その存在を認めるに足りる証拠がない。

2  請求原因2について

(一)  請求原因2(一)(本件特約店契約が二八年間にわたって毎年自動更新されてきたこと)、同(二)(資生堂が日本第一の売上を誇る化粧品メーカーであること)は当事者間に争いがない。

また、原告代表者尋問の結果によれば、原告の年商は約一一億円であり、資生堂化粧品の売上は多い時期で約二億五〇〇〇万円に達することが認められ(証人益田英則は原告の年商を三〇億円である旨供述するが、採用しない。)、被告から以外に原告が資生堂化粧品を仕入れる方途がないことは、被告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

3  以上の事実によれば、本件特約店契約の有効期間がその規定上は一年ではあるものの、自動更新条項に従って二八年間という長期にわたって原・被告間の取引が継続されてきたのであるから、原告において被告との取引が今後も継続されるものと期待することには合理性があり、その合理的期待は保護に値するものである。まして、その取引高も原告の経営規模からして決して少なくない額であって、資生堂化粧品を他から仕入れる方途もない以上、被告との取引が解消されれば原告が深刻な経営的打撃を受けることとなることは明らかである。

このような状況に鑑みれば、本件特約店契約はいわゆる継続的供給契約であり、各注文ごとに売買が成立するものではあるが、特段の事由のない限り、被告は原告の注文に応じる義務があるというべきである。

4  請求原因3は当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば同4の事実(原告が被告に対し、別紙物件目録記載の資生堂化粧品を注文したこと)を認めることができる。

二被告の抗弁について検討する。

1  被告の抗弁1(本件特約店契約中には、契約の有効期間中といえども、両当事者はそれぞれ文書による三〇日前の予告をもって中途解約できる旨の定めがあること)、同2(被告が原告に対し、平成二年四月二五日付けの解約通知書により本件特約店契約を解除する旨の意思表示をし、同意思表示がそのころ原告に到達したこと)は、いずれも当事者間に争いがない。

2  ところで、前記のとおり本件特約店契約は、いわゆる継続的供給契約であるところ、このような契約においては、たとえ契約条項中に当事者の一方の意思により解約ができる旨の定めがあっても、信義則上、著しい事情の変更や相手方の甚だしい不信行為等やむを得ない事由がない限り、一方的解約は許されないと解される。

3  そこで、以下、被告において一方的に本件特約店契約を解約することが許されるかについてみるに、前記認定にかかる事情に加え、〈書証番号略〉、証人益田英則の証言、原告代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件に至る経緯については、次のとおりであることが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(一)  資生堂は、資生堂化粧品の製造メーカーであり、被告は資生堂の関連会社であって資生堂化粧品の販売(卸)専門の会社(実質は資生堂の販売部門)であるが、被告(資生堂)は、資生堂化粧品の販売先(小売店)に対しては、必ず、被告(資生堂)作成の「資生堂チェインストア契約書」による基本契約を締結して取引を行っており、原告とも右の「資生堂チェインストア契約書」により契約を締結している(ただし、現在の「資生堂チェインストア契約書」は昭和五七年から使用されているものである。)。

右契約においては、小売店は消費者に対し、商品ごとに販売会社の指示に基づく説明指導をすべきこと、小売店は資生堂化粧品専用コーナーを設置し、販売会社主催のセミナーへ参加しなければならないこと、顧客管理のための台帳(花椿台帳と称する。)を作成しなければならないこと等が定められている。

(二)  原告は、昭和六二年以前から、単に「商品名」と「価格」と「商品コード」を記載しただけの商品一覧表(カタログ)を事業所等の特定の職場に配布して電話やファクシミリでまとめて注文を受けて配達するという方法(原告はこれを職域販売と称している。)をとっており、資生堂化粧品についてもこれを行っていたところ(なお、資生堂化粧品については定価の二割引で販売している。)、被告は、この販売方法が「資生堂チェインストア契約書」の定めに反するとして、東京北支店長名の平成元年四月一二日付け是正勧告書をもってその中止を求め、原告、被告とも弁護士を立てて折衝した結果、同年九月一九日付け合意書で、原告は原告の配布するカタログから資生堂化粧品を除き、今後資生堂チェインストア契約に適合した方法により販売する旨を約し、これにより以後原告と被告との取引を継続するとの合意が成立した。

(三)  その後、原告は、カタログから資生堂化粧品を削除して職域販売を続けたが(ただし、平成四年九月発行のカタログには資生堂化粧品が掲載されている。)、被告は、それまで原告の事務所(浅草所在)に資生堂化粧品を配達していたのを、原告の事務所では他の会社の化粧品と一緒にカタログ販売をされるのではないかと危惧して、原告の店舗に配達先を変更させて欲しい旨申出をしたが、これを拒絶され、被告の主張するセミナーへの参加も、被告が実際に販売する販売担当者に参加して欲しい旨要請しても原告代表者及びその妻が参加したにとどまったり、被告(資生堂)が小売店に作成を要求している「花椿台帳」を作成しなかったり等のトラブルが生じたほか、被告からの集金の際のトラブル等もあり、その交渉の過程で原告が前記職域販売を是正する意思がないことが判明したので(原告代表者尋問の結果からみても、原告が、合意書締結以前に採っていた販売方法を変更する意思がないことは明らかである。)、平成二年四月二四日に被告の東京北支店の益田課長から口頭で解除の意思表示がされ、翌二五日付けで解約通知書が原告に送付された。

4(一)  被告は、化粧品の品質の維持、皮膚トラブルの防止、消費者の利益促進のため、顧客ごとの肌の状態、好み、買上商品等の顧客管理の下に面接による相談販売ないしは説明販売を行うこと(対面販売)を基本理念としており、これに賛同する小売店に限って契約をしている点で、本件特約店契約は一般の継続的供給契約と異なる旨主張する。

しかし、右基本理念は、被告と小売店間の契約の性質そのものに影響を与えるものではなく、せいぜい継続的供給契約である本件特約店契約の解約(解除)の正当化事由の一つとなることがあるにすぎないと解すべきである。

(二)  思うに、メーカー(これと一体となった販売会社)が小売業者に対して商品の説明販売を指示すること(その一環として商品の販売先の台帳を作成させること)、自社商品専用の販売コーナーを設けること、等の販売方法に関する約定をすることは、商品の安全性の確保、品質の保持、商標の信用の維持等、当該商品の適切な販売のための合理的な理由が認められ、かつ、他の取引先の小売業者に対しても同等の条件が課せられている場合には、当然許されることであり、右約定に反する販売方法を採る小売業者との間の継続的供給契約を債務不履行(契約違反)を理由として解約し、あるいは、基本契約上の中途解約条項に基づき解約することも是認されて然るべきである。

しかしながら、この販売方法に関する約定についてそれほど合理的な理由が認められず、メーカー(販売会社)が、このことを手段として小売業者の販売価格、販売地域、取引先等についての制限を行っている場合には、これは不当な取引制限といわざるを得ないから、そのことを理由として継続的供給契約を解消することは許されないというべきである。

(三)  そこで、右見地から前記被告の主張にかかる基本理念について検討すると、これが本件の解除を是認し得るほど合理的なものであると認めることはできない。すなわち、

〈書証番号略〉(被告の東京北支店長作成の「なぜ対面販売を必要と考えるのか」と題する書面)において、被告(資生堂)は、「品質本位主義」「消費者主義」を理念とし、その実現のためには対面販売が不可欠である旨考えていると説明している。その理由は、①化粧品は直接人体につける化学製品であり、それ自体は安全であっても使用方法を誤ったり、肌の状態が悪いときにつければ皮膚トラブルを起こす可能性がある。②人間の肌は個人個人により、その性質は様々であり、同一人であっても、その季節、体調などによっても異なるものであって、肌にあわない化粧品をつけた場合にも皮膚トラブルを起こす可能性がある。③このような皮膚トラブルを未然に防止するためには、販売する者が客の肌を直接確認し、その肌に最も相応しい化粧品を選択し、その正しい使い方を説明したうえで販売する必要がある。④化粧品の販売に際しては、化粧品それ自体単に「もの」としての価値だけではなく、それを使用して美しくなるという機能を販売することが大切である。というものである。

しかしながら、本訴において具体的に、資生堂化粧品について皮膚トラブルが生じた例があったこと、ないし、そのことにより資生堂化粧品について安全性に疑問をもたれた例があったことを認めるに足りる証拠はないし、被告(資生堂)のようなボランタリーチェインシステムに加盟した小売店のみと取引をする制度品メーカーの化粧品が、他の問屋を通じて卸売販売をする一般品メーカーのそれよりも、より安全であると認めるに足りる資料もなく、かつ、そのような社会的評価を得ているとも認められない(証人益田英則の証言によれば、化粧品には、右のような制度品メーカーと一般的メーカーのほかに訪問販売メーカーがあることが認められる。)。また、化粧品の販売に当って、単に「もの」としての価値だけではなく、それを使用して美しくなるという機能をも販売することを重視することは、化粧品の販売戦略としての当否は別として、化粧品が特に使用方法如何により危険を生じたり、あるいは、化粧品としての効能を失うというものでない以上、それを遵守しない小売店との取引の拒絶を正当化する程の重要な理念とは解し得ない。

それだけではなく、一般に、小売業者に顧客との対面販売を要求し、多数の少量購入の顧客のそれぞれについて顧客台帳を作成させることは、販売経費の増大を招き、小売業者から通信販売等の販売手段を奪うことになるから、小売業者が一括、大量販売をすることを困難とさせるものである。そして、大量販売は容易に割引販売に結びつくものであるから、これを困難にする右要求は、結果的には小売価格の維持(値崩れ防止)の効果を生じさせることとなる。そうしてみると、本件特約店契約中の対面販売及び顧客台帳作成に関する約定は、被告が原告に対し、合理的な理由なしにその販売方法を制限し、価格維持を図るものとして、独占禁止法の法意にもとる可能性も大いに存するというべきである。

5 そうすると、被告の「基本理念」に反するという点は解除の事由となし難く、その余の被告主張の事情(原告が被告を脅した点や、支払の際に嫌がらせをした。)は、被告の「基本理念」に原告が従わないということがそのすべての原因であることは明らかであるから、これも顧慮するに値しない。

したがって、被告のした解除の意思表示は効力を生じないというべく、被告の抗弁は理由がない。

三確認の利益について

以上の次第で、本件特約店契約は現在も存続していると認めるべきであるところ、原告はその確認を本訴において求めるので考えるに、確認訴訟は一般に、原告の権利または法律的地位に不安が現に存在し、かつ、その不安を除去する方法としてもっとも有効適切である場合に限り認められる訴訟である。これを本件についてみると、原告は本件特約店契約に基づく化粧品の引渡しを求めているのであり、この給付請求は本件特約店契約の存在が前提となってはじめて認められる関係にある。この給付訴訟が認められれば、原告の法的地位の不安定は解消するのであり、この給付訴訟のほかに本件特約店契約の存在を認めなければならない理由は乏しいものといわざるを得ない。

したがって、本件特約店契約の確認を求める訴えは、確認の利益のないものとして、これを却下する。

四よって、原告の本訴請求は主文第一項掲記の限度で理由があるので、これを認容し、その余の訴えを却下することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条ただし書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官赤塚信雄 裁判官綿引穣 裁判官森淳子)

別紙物件目録〈省略〉

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